大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

岐阜地方裁判所大垣支部 昭和51年(ワ)110号 判決

原告

高田美知子

被告

日本道路公団

ほか一名

主文

一  被告らは、連帯して原告に対し金八四二万三、四三四円及び内金七六六万三、四三四円に対する昭和五〇年三月六日から、内金七六万円に対する昭和五一年一一月一九日から各完済までそれぞれ年五分の割合による金員を支払え。

二  原告の被告らに対するその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は一〇分し、その六を被告らの負担とし、その余を原告の負担とする。

四  この判決は第一項にかぎり、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  原告に対し、被告らは連帯して金一五〇〇万円及びこれに対する昭和五〇年三月六日から完済まで、年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

(被告両名)

1 原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生

原告は、昭和四八年一二月四日東京からの帰途、バスが静岡県駿東郡小山町桑木、東名高速道路下り足柄サービスエリアで停車したので他の乗客とともに下車し、道路外側線付近に立つていたところ、同日午後二時五〇分ころ、被告三洋運輸株式会社の所有にして同社従業員高橋渡運転にかかる大型貨物自動車(京八い七〇七号)が原告の近くを通過した際、側溝蓋をはねとばして原告に激突させ、原告に後記の傷害を負わせた。

2  負傷

(一) 前記事故により、原告は顔面挫創、左大腿複雑骨折兼挫創、外傷性出血シヨツクの傷害をうけ、昭和四八年一二月四日より同四九年四月一〇日まで、及び同五〇年一月八日から同月一八日まで、御殿場市萩原所在の駿東第一病院に入院した。また、第一回目の退院後第二回目の入院の間などに、右病院に合計二八回通院した。第二回目の入院は、第一回目の入院中そう入したキンチヤーの髄内固定釘の抜却手術のためである。昭和五〇年三月五日原告の症状は以下のとおり固定した。

(二) 後遺症は寒冷時の疼痛、顔面に三・三センチメートルの瘢痕、咬合不全、歩行障害等である。現在、左膝のやや上から左足親指まで、静止していても痛みがあり、左足親指にはしこりが残つて、あたためても痛みがとれない。左足の屈伸が不自由で、伸ばすとケイレンする。左大腿部は、さわると痛く、階段の昇降は極めて不便で、手すりをつかんでゆつくりとしかできない。正座はできず、和式トイレは不便であり、天気によつては頭痛もする。

3  損害

原告は本件事故による負傷、後遺症のため、以下のとおり損害を受けた。

(一) 逸失利益、金一五六九万三四二〇円

(1) 症状固定まで、原告は自宅で縫製加工業に従事していたが、前記負傷により、事故時より昭和五〇年三月五日の症状固定までの一年三ケ月間、合計金三〇〇万円の収入減となつた。

(2) 症状固定後、前記後遺症のため、原告は一年間、金九〇万円の収入減となる。原告は昭和三年一〇月二九日生れで、症状固定時は四六歳、以後六七歳まで二一年間は就労可能であるから、右九〇万円にホフマン係数一四・一〇三八を乗じて逸失利益を算出すると、金一二六九万三四二〇円となる。

(二) 慰藉料、金五〇〇万円

前記入通院、後遺症による精神的苦痛は大きく、慰藉料は金五〇〇万円が相当である。

(三) 交通費、金四四万二四〇〇円

原告は前記のとおり、二八回通院したが、同人の症状、病院の所在地の関係からして、車を利用しなければならなかつた。一回の交通費は、ガソリン代七〇〇〇円、高速道路通行料金(往復)三八〇〇円、運転手日当五〇〇〇円で、合計一万五八〇〇円であるから、二八回で金四四万二四〇〇円である。

(四) 家事費用、金一三六万八〇〇〇円

原告は前記負傷の翌日から、昭和五〇年三月五日までの四五六日間、家事もできず、他の者に一日三〇〇〇円を支払つて家事をしてもらつたが、そのため支払うべき費用は三〇〇〇円×四五六=一三六万八〇〇〇円である。

(五) 入院雑費、金八万三四〇〇円

一日六〇〇円で、入院期間の合計は一三九日間なので、六〇〇円×一三九=八万三四〇〇円である。

(六) 治療費、金五五万二五六〇円

右金額は、被告らの支払うべき治療費の残額である。

(七) 弁護士費用、金一〇〇万円

原告は本訴を原告訴訟代理人両名に依頼せざるを得なくなり、そのため着手金、報酬としてそれぞれ岐阜県弁護士会報酬等基準規程による標準額(いずれも一〇九万五〇〇〇円)以下の五〇万円ずつ支払うべき債務を負担したので、右合計一〇〇万円を損害として請求する。

4  責任原因

(一) 被告会社 同社は前記自動車を自己のため運行の用に供していたので、自動車損害賠償保障法第三条によつて、前記損害を賠償する責任がある。

(二) 被告公団 前記側溝は、同公団が設置、管理している公の営造物である。右側溝は道路外側線の外にあるとはいえ、その上を車両が通行することは十分予測され、現に通行していた。したがつて同公団は側溝蓋を車両の重量に耐えられるような堅固なものとし、かつ車両が通過する際、蓋がはねあがることのないようワイヤーで固定するなどしておかなければならない。

ところが同公団は蓋を固定しておかなかつたので、右営造物の設置には瑕疵があつた。そのため前記大型貨物自動車が通過した際、蓋がはねとばされて原告に激突し、同人に前記の負傷を与え、損害を加えたのであるから、同公団は国家賠償法第二条により、損害賠償の責任がある。

5  よつて原告は、共同不法行為者の関係にある被告らに対し、前記損害額から、既に受領した強制保険金一〇四万円を差引いた残額の内金の支払いを求めて本訴に及んだ。

二  請求原因に対する認否

(被告日本道路公団―以下「被告公団」という)

1  事故の発生

1項のうち、昭和四八年一二月四日静岡県駿東郡小山町桑木、東名高速道路下り足柄サービスエリアで原告が傷害(その具体的内容は争う)を受けたことは認めるが、その余は否認する。

2  負傷

2項の主張は争う。

3  損害

3項の主張は争う。

4  責任原因

本件は、被告三洋運輸株式会社の大型貨物自動車が道路外側線をこえて走行することは本件の場合その進行方向の右側に所在するガソリンスタンドに於て給油するため以外には禁止されているに拘らず、しかも制限速度四〇キロメートルを超過する速度で右道路外側線をこえて外側を走行した過失に因り生じた事故である。

瑕疵に関する原告の主張は否認する。

(被告三洋運輸株式会社―以下「被告会社」という)

1  原告の主張する請求原因事実中

(1)その日時及び場所において、(2)被告会社が保有し、従業員である訴外高橋渡が運転する車両が佇立していた原告の近くを通過したこと、(3)相被告に道路管理上の瑕疵があつたこと、の各事実は被告会社においても認める。

2  右を除くその余の請求原因事実についてはすべて争う。

(1)本件事故は道路管理者である相被告がその上を車両の通過が十分予測される(現実に通過もしている。)側溝上の蓋につき、車両重量に十分耐えられる様なものを使用し、かつ車両の通過により蓋がはね上がらぬ様固定する等の防止措置をとらずに放置していたため発生したものである。

(2)原告の傷害の程度加療経過については不知。

(3)原告の損害については否認する。

三  被告らの主張

(被告公団)

1 訴外高橋渡の運転上の過失について

本件事故は、被告会社の運転手訴外高橋渡の一方的過失により発生したものであつて、本件側溝蓋は、通常有すべき安全性を備えていたものである。

即ち、訴外高橋渡は本件足柄サービスエリアに休憩のため立寄つたが、同エリア内の駐車場が満車であつたため、そのまま本線に戻る積りであつたのであるから、本件車道外側線内を通過しなければならないところ、これを越えて走行したので道路交通法一七条に違反していることは明らかである。しかも同訴外人は同エリア内の法定速度が四〇キロメートル毎時に制限されているのにこれをはるかに越える高速で車道外側線を越えて走行したうえ、本件側溝上を進行方向に向つて(縦断的に)長く走行したため、予想外の力が加わり、本件側溝蓋の飛散を招いたものである。

仮に、本件側溝蓋の設置管理に瑕疵ありとしても、本件事故は専ら前記のような訴外高橋渡の過失によつて発生したもので、本件損害との間には同訴外人の違法行為が介在しているので、因果関係は存在しない。

2 本件側溝蓋について

(1) 原告は、側溝蓋を車両の重量に耐えられるような堅固なものとすべきであつたというが、本件側溝蓋は株式会社神戸製鋼所の製造した「アマグレードT―14」であつて、これは荷重一四トンまで耐え得る性能を有するものであつて、十分堅固なものであつた。

ところで、訴外高橋渡が運転していた車両の総重量は約一一トンであり本件側溝蓋はこれに十分耐えうるものであつたことは明らかである。

本件側溝蓋は、道路外側線外に設置されているものであるから、これを越えて給油所に入る車両は一時停止のうえ横断することを前提として、本件側溝蓋は設置されているところ、訴外高橋渡がこれをまつたく無視して走行したことが本件事故を招いたものである。

(2) 原告は、また側溝蓋は跳ね上らないようワイヤーで固定すべきであつたというが、設計法規上からその必要はないものである。実際上も危険防止のためにワイヤーで固定する事例はない。

3 過失相殺について

本件に於て被告らに責任ありとしても、原告は本件現場が給油所内であつて、危険のため一般乗客は下車禁止の場所であるにも拘らず下車歩行していたもので、原告にも相殺せらるべき不注意の過失がある。

(被告会社)

1 本件は道路管理者である相被告が、車両重量に十分に耐えられない本件溝蓋を固定することもなく設置し、かつ、破損しても取り変えようとせず放置していた瑕疵により発生したものであり、被告側には運転上何らの過失もなく、被告会社車両には本件事故に関係のある構造上又は機能上の何らの障害もなかつたものであるから、被告会社については免責されるべきである。

2 本件側溝蓋は、車両が通過することを前提として設置されており、かつ現実に相当数の車両がその上を通過していることからすれば、そこに設置された溝蓋が車両の通行等に対しても十分耐えられるようになつており、そこを通行しても何らの危険もないと考えることは当然であり、当時制限速度以下の比較的低速度で右側溝蓋を通過した高橋運転手に本件のような事故発生まで予見させることは無理であり、このことからして被告会社車両の速度についても過失はない。

3 原告は、支払治療費(一五四万七〇一円)のほかに、付添費、交通費、雑費、休業補償、後遺症補償等として、合計二四二万三、〇一三円の支払を受けていることから、当然本訴請求から右支払額は控除されるべきである。

四  被告らの主張に対する原告の反論

1  側溝の設置、管理の瑕疵

(一) 被告公団は「側溝蓋を跳ねあがらないようワイヤーで固定すべきであつたというが設計法規上からその必要はない」旨主張している。しかしながら原告は設計法規上どうなのかを問題にしているのではない。同被告のいう設計法規とは具体的にどの法規を指すのかは不明である。かりになんらかの法規に、「ワイヤーなどで固定しなければならない」旨規定されてはいなくても、側溝の設置、管理に瑕疵があつたことは明白といえよう。

したがつて被告公団は側溝設置当初から、遅くとも溝蓋の折損、わん曲時点から、溝蓋をワイヤーなどで固定すべきであつたといえるのであり、同被告の側溝の設置または管理に瑕疵があつた。

(二) また被告は溝蓋は自動車荷重一四トンまでは十分耐えることができ、高橋運転車両は一一トンであつたから、同車両には耐えられた旨主張する。しかし一一トンであつても現実に折損したのだから、果して一四トンに耐えられたかは、一層疑問である。また同被告は高橋の走行方法を問題にしているが、本件事故現場は給油所前であり、給油する車両は必ず側溝上を通過する。給油しない車両であつても側溝上を走行することは予測できた。そして現実にもそのように走行しているのだから、一時停止を前提として設置したこと自体、少くとも右のような走行を知つて放置しておいた点に、設置、管理の瑕疵がある。

2  訴外高橋の過失

同訴外人の走行方法は、道交法第一七条に違反して、車道外側線を走行し、かつ法定速度(時速40キロメートル)を越えて約六〇キロメートルで走行し、溝蓋の上を約三〇メートル縦断した過失がある。

第三証拠〔略〕

理由

一  原告主張の日時場所で原告が傷害を負つたことは当事者間に争いがなく、各成立に争いのない甲第一号証ないし第四号証、第七号証、乙第一号証ないし第四号証、丙第一号証ないし第六号証、証人高橋渡の証言、原告本人尋問の結果(第一回)並びに鑑定人小菅真一の鑑定の結果を総合すると

(1)  原告が前記日時・場所の足柄サービスエリア給油所前で佇立していたところ、その近くを進行していた被告会社運転手訴外高橋渡運転の大型貨物自動車(タンクローリー=以下「高橋車」という)が給油所南側の側溝蓋の上を通過した際、鋼製の側溝蓋(アマグレードT14)一枚(幅〇・四メートル、長さ一メートル、厚さ三・五センチメートル、重さ二二・二キログラム)が約一三・一メートルはね飛び、これが原告の側頭部、左大腿部に当つたこと、

(2)  右衝撃により、原告は顔面挫創・左大腿複雑骨折兼挫創・外傷性出血シヨツクの傷害を受け、右傷害治療のため御殿場市萩原所在の酸東第一病院に昭和四八年一二月四日より同四九年四月一〇日まで(一一七日間)入院し、その後同年一二月ごろまで肩書住居から右病院へ毎月二回通院し、昭和五〇年一月八日から同年同月一八日まで再入院して第一回目の入院中挿入したキンチヤーの顎内固定釘の抜却手術を受け、その症状は後記後遺症を残して昭和五〇年三月五日ごろ固定するに至つたこと、

(3)  原告の後遺症は、寒冷時の疼痛、右眉より前額部に約五センチメートルの線状瘢痕、咬合不全、歩行障害(左膝関節の運動障害残存)等であり、総合所見として左膝関節及び左足関節に単なる機能障害と左下肢一センチメートル以上の短縮とを併合して自賠法施行令別表等級の一一級に、女子顔ぼうに醜状を残すものとして同一二級に、これらを総合して結局同一〇級に該当するものであること、

が認められ、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

二  そこで、右事故発生の状況について検討する。

前掲甲第七号証及び乙第一号証ないし第四号証、証人高橋渡、同藤井守、同本村武勝、同芹沢辰春(後記措信しない部分を除く)の各証書並びに原告本人尋問の結果を総合すると、

(1)  本件事故現場は、被告公団の管理する高速自動車国道東海自動車道の本線(下り)から足柄サービスエリア内に入り、ランプウエイを約一八〇メートル西進した所の北側にある給油所前の広場(別紙図面参照)であつて、給油所の南側はランプウエイにつらなる通路(幅員六・四メートル)をはさんでアイランド(島)があり、その更に南側は普通車駐車場となつていること、右給油所と通路との境には側溝が設置され、同側溝上には前記のような鋼製側溝蓋(格子状のもの)が九三枚敷設されていたこと、本件事故の際、その東端から三〇枚目の側溝蓋が先端一七センチメートルの箇所より三四センチメートル折損しており、東から西に向い進行していた高橋車がはね上げた側溝蓋は、その次の三一枚目のものであつたこと、なお本件事故が発生するまでにも右給油所前の側溝蓋は、車両の通行によつて一部が凹んだりしたことが二回程あつてその都度被告公団側で取換えていたこと、また本件事故後被告公団において側溝蓋を互いに鋼製ワイヤでつなぎ合せ、はね上らぬようにしたため、車両が通過しても音も少さくなつたこと、

(2)  原告は、当時東京へ団体で芝居見物に行き、その帰途乗つていたバスが給油のため本件給油所に立寄つたので、バス最前部の補助席に坐つていた原告はバスガイドが降りたのに続いて後の乗客が立ち上つたので降りられると思つて下車し、バス左前方の前記通路右外側線(白線)から約四・七メートル離れた所でバスガイドと立ち話をしていたところ、恰も木の葉が舞うように飛んできた前記側溝蓋が原告に当り前記認定のように受傷したこと、

(3)  訴外高橋渡は、高橋車(車長九・三三メートル、車幅二・五メートル、自重一一トン)で千葉県の出光興産へ納品して空車で被告会社京都営業所へ帰る途中、本件足柄サービスエリアに休憩のため立寄つたが車がつかえていたので制限速度の時速四〇キロメートル以下に速度を落し、大型車駐車場へ行こうとしたが満車であつたため、そのまま本線に戻るつもりであつたこと、当時、前記給油所前付近通路左側には観光バスが三台ほど停車しバスの乗客が下車したりしていたので右通路の右外側線を超えて進行したが、そのときダブルのタイヤになつている右後輪が本件側溝蓋上を縦状に約三〇メートル位進行する結果となり、その際、前記側溝蓋がはね上つたこと、なお同訴外人としては側溝蓋を踏んだシヨツクも殆どなく、目撃者から呼びとめられて事故発生を知つたこと、呼びとめられてから高橋車が停車するまで約一四メートル位しか走行していないこと、停車位置付近にはスリツプ痕等はなかつたこと、

が認められ、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

右各事実を併せ考えると、本件事故は被告会社の高橋車が走行中、右後輪タイヤが破損した一枚の側溝蓋に喰い込み、それを前方に押し出し、その圧力でその前方にあつた本件側溝蓋がはね上げられた結果、発生したものと認めるのが相当である。

原告及び被告公団は、本件は高橋車が法定速度(四〇キロメートル)を超えて約六〇キロメートルの高速で本件側溝蓋上を走行していたために生じた事故であると主張し、訴外芹沢辰春の証言中右に沿う部分が存するが、同人は側溝蓋の上を走行する音と相まち速いという感じでそう証言したものであり、現実に測定していたわけでもないので、右証言は前掲各証拠に照らし、たやすく採用できない。却つて、前記甲第七号証、証人青木是則(第二回)の証言によつて成立を認められる丙第二一号証の一ないし三並びに証人青木是則の証言(第二回)を併せ考えると、高橋車の速度は時速三〇キロメートル位であつたことが窺われる。

三  被告会社が高橋車を保有し、自己のため運行の用に供していたこと、訴外高橋渡が高橋車を運転していた間に本件事故が発生したことは当事者間に争いがない。

そこで被告会社の免責の主張について判断する。本件事故は、前述のとおり訴外高橋渡が高橋車を運転して車道外側線(被告会社は、本件事故発生地点が道路交通法二条に定める「路側帯」にはあたらない旨主張するが、本件のような歩行者の通行が禁止されている高速自動車道ないし自動車専用道路における路側帯はまず車道の効用を保つほか、隣接する給油所内は、作業員や自動車の運転手、乗客が歩行することの多いことを考慮して通路と給油所敷地内とに一線を画するべく路側帯を設けてこれを区画したものといいうる。)を越えて本件溝蓋敷上に進入して何らシヨツクを感じなかつたのでそのままの速度で進行を続けたところ、前記現場で本件事故が発生したものである。ところで、車両は路側帯と車道の区別のある道路においては原則として車道を通行しなければならない(道路交通法一七条一項)とされ、更に車両制限令一〇条では「自動車の車輪が路肩にはみ出してはならない」と規定しているのに、訴外高橋渡は、外側線を超えて側溝蓋上を通過し、通行可能とはいえ、通常縦に長く走行することを予想していない側溝蓋上を約三〇メートルにわたり重量のある大型自動車を走行させたことは、前記認定の如き重量と形状の、側溝蓋をはねとばす危険も予測できたのであるから、側溝上を避けて通るか又はより低速で通過しなかつた点に過失が存するものといえる。してみると、被告会社は、本件事故発生につき訴外高橋渡に過失がなかつたとはいい得ないので、自倍法三条により原告の損害を賠償する義務を免れないというべきである。

四  本件事故現場が、被告公団において管理している道路と一体となつている部分であることは被告公団において明らかに争わないので自白したものとみなす。そして本件事故は、高橋車が側溝蓋上を走行中、その圧力で側溝蓋がはね上りその結果発生したものであることは前記認定のとおりである。

前記認定の本件現場の地理的状況からすれば、側溝蓋上の部分は、本来は自動車の道路走行に使用さるべき部分ではないけれども、給油所に出入りの車両が多数横断ないし斜めに進行しており、しかも左(南)側の島近くに駐停車する車両との併進状態となるような場合は走行の安全を求めて側溝蓋上を利用する結果となることは十分予測できるところである。しかも本件高速道路については格別重量制限がなされておらず、積荷と合わせ重量二〇トン位の大型貨物自動車等も相当台数走行していることは顕著な事実であり、かつ前記二に掲げる証拠によると、本件エリア内給油所で給油する車は一日二五〇台ないし三〇〇台で、休日には五〇〇台ないし六〇〇台程度であるが、就中、昭和四八年一二月ごろは石油パニツクの影響で供給制限をしていなかつた本件給油所には一日七〇〇台ないし八〇〇台の車両が出入していたこと、右給油所には特に重量による進入制限もなかつたこと、側溝蓋はこれまでも一部が凹んだりして取換えていたこと、当時はね飛ばされた溝蓋の手前の一枚が、前記認定のように破損していたこと、本件事故後被告公団において側溝蓋と側溝蓋とをワイヤーロープでつなぎ合わせ、はね上らないよう処置したことが認められる。

右認定の事実に徴すると、本件側溝蓋が道路の一部として通常備うべき安全性を欠いていたものといえる。

被告公団は、本件側溝蓋は規格に合致したものであつて、本件事故は被告会社高橋車の一方的な過失ある運行により発生したもので、側溝蓋の設置管理に瑕疵はなく、仮りに瑕疵があるとしても、本件損害との間に因果関係はない旨主張する。

しかしながら、道路管理者たる被告公団において規定、規格に適合した重量の側溝蓋を設置、管理していたからといつて常に道路の設置管理に手落ちがなかつたとはいえない。

本件の場合も被告公団が現場の道路状況や交通量を余り考慮に入れないで耐用力に問題のある側溝蓋を使用していたため事故が発生したものといわざるを得ず(日本道路協会発行の「通略橋示方書同解説」―乙第五、六号証―にも、一日の計画交通量一、〇〇〇台未満の道路であつても交通量に比し大型車交通量が特に多い場合は、二〇トンを用いるものとする、とされているのに、産業道路化し大型車の多数出入りが予想される本件サービスエリア側溝上の溝蓋には一四トン程度しか耐えない重量二二・二キログラムの溝蓋を設置していたこと自体も問題である。)結局、被告公団において、耐用能力に十分でない側溝蓋を固定することなく設置し、かつ破損していたにの拘らず取り替えないし修理もせず、放置していた点に設置、管理の瑕疵があつたものといえる。尤も、本件事故は、前記認定のように、被告会社の訴外高橋渡の過失にも原因するが、側溝蓋上を車両が縦走することは、粗雑な運行方法であるにせよ、被告公団としては十分予測しうることであり、本件事故が高橋車の走行中発生したからといつても、その重量に耐え得る安全性を本件側溝蓋が備えていなかつた以上、右結論を左右するものではない。しかも高橋車が制限速度四〇キロメートルを超える高速で走行していたことは証拠上裏付けられないところであり、加えて他に高橋車の走行態様が道路ないし側溝蓋の設置、管理のうえから予想し得ない程異常であつたと認めるに足る証拠もないので、右瑕疵と本件損害との因果関係を欠くとはいい得ない。

したがつて、被告公団は、少くとも本件側溝蓋、ひいては道路の管理に瑕疵があり、しかも右は日本道路公団法によつて組織運営される被告公団の管理にかかる公の営造物に関するものであるから、国家賠償法二条一項にいう「公共団体」として右損害賠償の責を免れないというべきである。

五  被告会社は、前記三のとおり高橋車を保有し、自己のため運行の用に供していたところ、訴外高橋渡が高橋車を運転していた際、本件事故が発生したが、右事故発生については訴外高橋にも過失が存したといえるので、右事故による原告の損害を賠償する義務があり、被告公団は前記四のとおり同被告が管理する側溝蓋の管理に瑕疵があり、右瑕疵によつて事故が発生した以上、道路管理者として原告の損害を賠償する義務を免れない。しかして本件事故の態様に徴すると、高橋車の前示走行状況と、被告公団の道路管理の瑕疵は客観的に関連共同して本件事故発生に至つたものと認められるので、被告会社と被告公団とは各自原告の損害につき全部賠償義務があるといわなければならない。

六  損害

前記一で認定した事実によれば、原告は本件事故によつて前記一で認定のような傷害を受けて入院し、かつ昭和四九年四月ごろから同年一二月ごろまで毎月二回位通院していたが、昭和五〇年三月五日ごろ前記のような後遺症を残して症状が固定しているのでこのような事実に基づき原告の損害を算定する。

(1)  入院中の治療費

成立に争いのない甲第五号証、原告本人尋問の結果(第一回)によれば、原告の前記入院中、治療費総額として二〇九万三、二六一円を要したが、うち一五四万七〇一円が被告会社において支払われ、残額五五万二、五六〇円が未払となつており、原告に対し前記病院からその支払請求がきていることが認められる。

入院治療費が本件事故と相当因果関係に立つ損害であることが明らかな以上、右金額につき被告らに支払義務がある。

(2)  交通費

前記一の事実及び前掲甲第三号証、証人高田春雄の証言並びに原告本人尋問の結果(第一回)によると、原告は本件傷害治療のため退院後の昭和四九年四月から同年一二月まで医師の指示に従い月に二回肩書住居から前記病院に通院し、一回当り一万五、八〇〇円(ガソリン代七、〇〇〇円位、高速道路通行料三、八〇〇円、運転手日当五、〇〇〇円)を要するので、その費用として二八万四、四〇〇円を要したものと認められ、原告の症状、病院の所在地の関係等に照らし、右金額の限度で本件事故と相当因果関係に立つ損害と認められる。

(3)  入院雑費

弁論の全趣旨によれば、原告は二回にわたる入院期間中(一三九日間)、日用品、電話料等の雑費を支出したことが認められるが、当時としては一日五〇〇円の割合で計六万九、五〇〇円が本件事故と相当因果関係に立つ雑費支出の損害と認める。

(4)  逸失利益

(イ)  休業による損害

証人山下宰生の証言によつて真正に成立したことが認められる甲第八号証、証人山下宰生、同高田春雄の各証言並びに原告本人尋問の結果(第一回)を併せ考えると、原告は事故当時身体障害者(四級)の夫と共に、従業員七名を使用して各種婦人コートの縫製加工業を営み、少くとも年間約三〇〇万円の純益をあげていたところ、本件事故による受傷のため昭和四八年一二月から同五〇年二月ごろまで一年二ケ月間仕事に従事することができなかつたこと、右純益に対する原告の寄与率は夫の三に対し、七とみることができるので、原告としては年間二一〇万円を下らない収入を得ていたことが認められ、これを休業期間一年二ケ月として算出すると、休業による原告の損害は二四五万円となる。

(ロ)  家事費用支出による損害

前掲証拠によると、原告は前記縫製業を営む傍ら、事業所近くの住居に夫や二人の子供と同居し、家事にも従事していたところ、受傷の翌日である昭和四八年一二月五日から同五〇年三月五日ごろまで(四五五日)家事も出来ず、母や妹のほか、松野某にも家事手伝を依頼し、松野には一日三、〇〇〇円の日当を支払つていたことが認められる。

ところで縫製業を中心となつて営んでいる婦人が仕事に従事しつつ家事も担当した場合には、右仕事の内容、収入額、稼働時間、事業所と住居との位置関係等を勘案して、仕事の収入減のほか、主婦としての損害も認める余地がある。しかし、かかる場合主婦の分の逸失利益は専業主婦に比して低く評価しなければ不合理となるが、原告の場合傷害の治療経過、症状、従前の勤務状況や家事従事状況並びに松野への一日当りの支払額を併せ考えると、一日当り五〇〇円の範囲で認めるのが相当である。したがつて、一日五〇〇円の割合による四五五日分の合計二二万七、五〇〇円の限度で本件事故と相当因果関係のある損害と認める。

(ハ)  後遺症による逸失利益

後遺症に基づく労働能力低下による財産的損害の算定においては、被害者の後遺症の部位・程度、職業、事故前後の稼働状況、将来の見とおし等を総合勘案してこれを算定すべきものと考える。

これを原告についてみてみるに、前掲甲第八号証、同丙第二二号証、証人高田春雄、同山下宰生の各証言、原告本人尋問の結果(第一回)、鑑定人小菅真一の鑑定の結果を総合すると、原告は前記一のとおりの病名で自賠責障害等級一二級一四号の後遺症認定を受け、その保険金一〇四万円を受領していること、右後遺症の等級についてはその後中部労災病院での鑑定の結果前記一認定の如く、一〇級に該当する旨判定されたこと、しかし右判定の根拠の一つである醜状障害は原告の従事している仕事の稼働能力には影響がないと考えられるので、結局労働能力低下に関係のある後遺症は、左膝関節及び左足関節の機能障害(一一級)であること、症状固定後も依然足のだるさや疼痛更には頭痛を覚え、仕事の内容も従前のようにミシンを使うことができず縫製工の指導、監督業務にとどまつていることが認められ、これら事実に事故前後の収入等を併せ考えると、原告の労働能力喪失率は二〇パーセントとするのが相当である。しかして、原告の症状が固定した昭和五〇年三月当時、原告は四六歳四月であつたので、その年齢の就労可能年数は二〇年であるところ、前記のような症状と仕事の内容にかんがみ労働能力の喪失が認められるのは一〇年間をもつて相当とする。

そこで年収二一〇万円に労働能力喪失率の二〇パーセントを乗じ一〇年間のホフマン係数(七・九四)を乗じると次の方式で三三三万四、八〇〇円となる。

2,100,000×20/100×7.94=3334,800

(5)  慰藉料

原告が本件事故によつて蒙つた傷害の部位、程度、入通院による治療経過並びに右傷害による現存の症状等にかんがみると、本件事故の被害者として原告が多大の精神的苦痛を蒙つたことは推認するに難くなく、右の各事実のほか本件事故の態様、原告の年齢、職業、本件受傷によつて家業及び家庭生活に与えた影響など本件に顕われた一切の事情を斟酌すると、原告の右精神的苦痛に対する慰藉料は二六〇万円が相当である。

(6)  損害の填補

成立に争いのない丙第一四号証ないし第二〇号証、第二二号証、証人青木是則の証言(第一回)、原告本人尋問の結果(第一回)並びに本件弁論の全趣旨を併せ考えると、原告は本件事故について被告会社から支払治療費一五四万七〇一円と入院中の看護料・雑費・休業補償分として八一万五、三二六円と、自動車損害賠償責任保険の後遺症補償として一〇四万円の合計一八五万五、三二六円を受領していることが認められ、右認定に反する原告本人尋問の結果(第二回)は前掲証拠に照し措信できず他に右認定に反する証拠はない。

そこで、これを前記(1)ないし(5)の損害金額九五一万八、七六〇円から控除すれば七六六万三、四三四円となる。

(7)  弁護士費用

以上のとおり、原告は被告公団及び被告会社各自に対し、本件事故に基づく損害賠償債権を有するところ、弁論の全趣旨原告本人尋問の結果(第三回)によると、被告らのうち被告会社において、これまで二九二万二、七一四円と自賠責保険金として一〇四万円が支払われている以外、任意の支払いに応じないので、原告訴訟代理人両名に対し本件訴訟提起による債権の取立を委任し、その着手金・報酬として金五〇万円ずつ合計一〇〇万円を支払うべき債務を負担したことが認められるが、本件事件の難易、審理経過、前記損害額にかんがみ、右のうち七六万円が本件事故と因果関係に立つ損害と認められる。

(8)  なお、被告公団は原告においても本件現場が給油所内で一般乗客は下車禁止となつているにも拘らず下車歩行していたものであるから相殺されるべき手落ちがあると主張するが、原告本人尋問の結果(第一回)によると、バスガイドの方で下車禁止を告げられなかつたことが認められ、右認定に反する証人藤井守の証言は採用できず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。右事実に併せ、本件当事者にバス会社が含まれていればともかく、単にバスの一乗客に過ぎない原告が下車禁止場所に下車したからといつても、被告らの瑕疵・過失に較べきわめて軽微な手落ちであつてそれは過失相殺すべき程の過失とは認め難い。

七  以上のとおり原告は被告公団、同会社に対し、各自金八四二万三、四三四円及び内金七六六万三、四三四円に対する原告が受傷した日の後である昭和五〇年三月六日から、内金七六万円に対する本訴状が被告らに送達された日の翌日であること記録上明らかな昭和五一年一一月一九日から各支払済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で認容し、その余の被告らに対する請求は失当として棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九二条、九三条一項を、仮執行の宣言について同法一九六条一項を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 大山貞雄)

別紙図面 本件事故現場見取図

〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例